着込んでくたびれる程に格好良くなっていく服の条件とは

「洋服なんてガンガン着て、洗濯して、乾燥機にかけて、クタクタにくたびれた頃が一番格好いいんですよ」

これは僕が勝手にファッションの師匠として尊敬している徳島のセレクトショップ、『Boysmarket』の店主の津保さんがかつてブログに書かれていた言葉である。

この言葉に出会った時、僕は頭をガツンと殴られたような大変な衝撃を受けた。

Boysmarketと出会って僕の服装観は180℃変わった

当時、僕は30代後半だったのだが、何を買っても着てもどうもしっくり来ず、あれこれ試行錯誤している時期であった。

そんな時Boysmarketに出会い、以来大人の男として目指すべきファッションはこれだ、と師匠のチョイス・着こなしを参考にさせてもらっている。

Boysmarketの魅力は、ただ単に洋服や洋品を紹介するだけではなく、何かに夢中になれる楽しい生活が前提にあって、ファッションはあくまでそれを彩るものだ、というメッセージを送っているところである。

だから店のブログでは師匠自らが休日は仲間とサーフィンに行って、帰りに定食屋で大盛りのご飯を食べたり、毎朝愛犬とジョギングに行って、お店で仕事して、その後気取らない居酒屋に飲みに行ってなどと、ごくごく普通の日常が紹介されている。そしてそれぞれの場面に相応しい、それでいて決めすぎない肩の力の抜けた格好が発信されているのだ。これが実に格好いい。僕もいつかこんな服を着て、こんな生活をしてみたいと思う。

さらぴんは格好悪い

Boysmarketではパタゴニアのアイテムも取り扱っているのだが、師匠は、

「パタゴニアはさらぴん(新品)は格好悪いので、まずはジョギングやトレーニングでガンガン使って、クタクタになったらタウンウェアにして下さい」

と仰ったことがある。なんということであろうか。僕はこの言葉にも目から鱗の思いであった。

僕はそれまでは、パタゴニアの様なアウトドアブランドの服であっても、さらぴんの状態が最高で、いかにその状態を保つかということに注意を払って来たのである。着ている時も出来るだけ服にダメージを与えないように気を使い、洗濯は丁寧に裏返してネットに入れてオシャレ着用洗剤を使用して洗濯していたものである。そしてくたびれてきたらジョギング用や部屋着に降格させるもの、と思い込んでいた。

師匠はそんな僕のセコく格好悪い考えを笑い飛ばすように、全く逆のことを教えてくれた。

しかし、どんな服でもくたびれて格好良くなるわけでは決してない。また、着る側にも求められることがある。

使い込む程格好良くなる服の条件

長く着ることを前提に作られている

使い込んでくたびれる程に格好良くなる洋服・洋品は、まず作り手が長く使うことを前提にこだわりを持って作られていることが大前提だ。

具体的には繰り返しの着用・洗濯にも耐えられる丈夫な素材を使っていること。縫製がしっかりしていること。

しばらく着たら首元が伸びてしまったり、型崩れしてしまうような服はだらしない印象を与えるだけで、決して格好良いくたびれ方にはならない。

長く着ることを前提に作られている洋服・洋品の価格は自ずと高くなりがちだが、長い間使えることを考えると、結果的には安い服を頻繁に買い替えるより安くなるし、環境への負荷も小さい。

エイジングのスピードがゆっくりである

使い込むほど格好いい洋服・洋品はエイジングのスピードがゆっくりである。何度も着て、洗濯を繰り返すたび少しづつ色が抜けて、生地が柔らかくなっていき、なんとも言えない味わい深いエイジングを深めていく。

あっという間に色が抜けてしまうような服ではこうはいかない。従ってファストファッションの製品ではちょっと無理だろう。

リペアが可能である

長く使うことを前提としているメーカーの洋服・洋品はほつれ・破れなどのダメージの修理に自ら対応していることが多い。

かつて師匠が、愛用のパタゴニアのジョギングショーツをあちこちリペアしていたのを履いているのを見たが、それがまあなんとも格好良かった。きちんとリペアされたのは自分にとって世界で1着だけの、手放せない相棒になるに違いない。

定番品である

長く愛用するのに大事なのは、流行の波に左右されない定番品であるということだ。

いくら時間をかけてエイジングしても、その頃には流行遅れとなっていて着るのはちょっと恥ずかしいな、となってしまってはどうしようもない。

これまでも長い間支持されてきた定番ブランドの定番品、これを買っておけば間違いない。

着る手に求められること

くたびれた服を格好良く着こなすためには、着る手にも求められることがある。

それはなんといっても「清潔感」だ。

服はきちんと洗濯されていてシミや黄ばみなどないこと。シャツは必要に応じてアイロンがかけられていること。革靴はピカピカに磨かれていること。

また肝心の着る手の眉毛がボサボサであったり、寝癖がついていたり、猫背であったりしたら相手に与える印象は単に「くたびれた服を着たくたびれたおじさん」になってしまう。

そういう意味では、使い込んでくたびれた服を格好良く着こなすのは、自分自身への意識を高め、鍛えてくれると言えるかもしれない。

僕の手持ちでエイジングが楽しみな洋服用品は

僕の手持ちでいうと、パタゴニアのウェア全般、リゾルトのジーンズ、individualizedのボタンダウンのオックスフォードシャツ、FilsonのTシャツ、これらは使い込むほどに色落ちして、柔らかくなって、馴染んで、格好良くエイジングしつつある。

中でも今、一番エイジングが楽しみなのがFILSONの米国製のトートバッグである。買った当初はゴワゴワと硬くて、なんとも無骨で男臭い印象であったが、使い込むにつれ少しづつ柔らかく、色落ちも出て穏やかな表情になっている。汚れたら丸洗いも出来るし(メーカーは非推奨だが)、レザーの持ち手が切れたら交換も可能だ。メーカー自身、長く使ってもらうことを前提にしているのだ。僕はいっちょ、このバッグを死ぬまで使ってやろうと企んでいる。くたびれたFILSONを持っているジジイなんて、実に格好いいではないか。

ひとつ、くたびれる程格好いいというのはあくまでオフの日用の服についてだ。仕事の時に着るスーツはテカったりくたびれたりしてきたら即座に買い替える。ネクタイも2〜3年が寿命だと思っている。カバンや名刺入れもくたびれたのを持っていたら、相手に「ああこの人はこういう人なんだ」と一発で見抜かれてしまう。

また下着や靴下に関してもくたびれたのはダメだ。パンツなんて他人から見えないのだからくたびれていても良いではないか、と思われるかもしれない。しかし、くたびれたパンツを履いて自信を持って大事な商談に臨めるだろうか。他人の目は誤魔化せても自分自身は誤魔化せないのだ。

まとめ

僕は休日用の洋服は滅多に買わない。買ってせいぜい年に2〜3着である。

本当は欲しい物が沢山あるのに、我慢して買わないわけではない。かといってお洒落を楽しむことを諦めたわけでもない。手持ちのアイテムだけで十分満足しているからである。それらは決して安い物ではないが、気兼ねなく着て、着終わったら丁寧に手入れをしてやれば、驚くほど長いこと使えるし、使い込むほどに馴染んで、エイジングされて、格好良くなっていく。

こういう洋服・洋品との付き合い方、実に楽しいものですよ。

Tanoyatsu

40代半ば、妻と二人の女の子を残し、長野に単身赴任中。料理・掃除大好きのおばさん力高め男子。趣味は料理の他・ジョギング・水泳・乗り鉄。数年前から断捨離・ミニマリストに興味を持ち、「モノを極力持たないライフスタイル」をゆるめに実践中。